永遠を誓った愛の生贄
この城に来てから半年が経ったある日のことだった。
現王が病に倒れ、第一皇子であるウィルが代わりに即位しこの国を治めることになった。

「おめでとうございます!」

国民や大臣から次々と祝福の声を掛けられながら、王座にて戴冠の儀を行う。
愛すべき次期国王の誕生だった。
それと同時に、今まで以上に忙しくなったウィルと会う時間は極端に減ってしまった。


「今日も来なかった…」


一人が寂しいなんて思う日が来るとは夢にも思わなかった。私はヴァンパイアで、ウィルは人間。恋人でも家族でも何でもない。
ただ彼が優しいから、ここに置いてもらってるだけなのにそれ以上を期待してしまうなんて。
気分を変えようと、久し振りに外を散歩することにした。
中庭の薔薇が咲くガーデンはアーチ状のトンネルになっていて、太陽の出ている昼間でも普通に出歩くことができる。これもウィルが私の為に設計してくれたものだった。
そして真ん中にある屋根のついたテラスでウィルとお茶をするのが私の日課だった。
だけど、今日はそこに先客がいた。

「あら?あなた、もしかして…」

ウィルとそっくりの金色の髪に青い瞳をした女性が、私のいつも座っている席にいる。
そしてその隣にはウィルがいた。

「こんにちは。はじめまして、よね?」

ニッコリと微笑んで貴族式の挨拶をする。
ウィルは、少し気まずそうな顔をしていた。
私はそれを見て、すべてを察してしまった。

「私はウィルの婚約者のイザベラ。あなたよね?お城の“魔女”って」

私は便宜上、お城の雇われ「魔女」ということになっている。
怪我をした兵士や国民の為に時々薬を作ったりしている。
ヴァンパイアだとバレたらきっと魔女狩りに遭うより酷い目に遭うとわかっているからウィルがそういう役職を設けてくれた。

「どうしたの?そんなところにいないで、こちらへ来て一緒にお茶しましょうよ」

尊い血を持った美しい女性の、まるで太陽のようにあたたかく慈愛に満ちた眼差し。
国王の婚約者であり、約束された未来の皇后である彼女からは、そんなオーラで溢れていた。
私とは正反対の、彼の隣にふさわしい人だとすぐに理解できた。

「いいえ、私は薬草をとりにきただけですので…」

そう言って私はその場を去った。
ああ、やっぱり私はここにいてはいけない人間なんだわ、と思い出す。
どうして勘違いしてしまったのか。
彼と私では住む世界が違うのに。
なのにどうして、涙が出るの?

「ルナ!」

名前を呼ばれて振り向くと、息を切らして走ってきたウィルがいた。
しかし私は掴まれた手を振り解いて再び歩き出す。

「誤解だ…違う…聞いてくれ…」

彼の口から真実も嘘も何も聞きたくなかった。期待すればするほど惨めになるだけだと知っていたから。
このままここを去れば、何も傷つかないで済む。


「私の方こそ、誤解してたわ。最初から、幸せになんてなれるわけないのに。まるでおとぎ話みたいだって、浮かれてた」

ぴたり、と部屋の前で足を止める。
もうここに帰ることはない。

「それでも、あなたに会えてよかった。あなたを好きで良かった」

さようなら。
そう言い切る前に眼の前が真っ暗になった。

「誤解だ。私の話を聞いて」

気づけばキスをされていた。
瞳から零れ落ちる涙を一つずつ掬って、私を見つめる優しい彼の眼差し。
きっとこれも、都合のいい夢に違いないと思った。

「彼女は私の従姉妹で、親が勝手に決めた婚約者だ。今日その話をちょうど二人でしていたんだ」

再び絶望の涙が溢れ出す。
どうしてそんな酷い事をわざわざ私に言うのかわからなかった。

「イザベラに君とは結婚できないって、断った。私には愛する人がいる。心に決めた相手がいると」

涙のせいか、視界がまるでキラキラと宝石のように光り輝く。

「それは君だ」

左手の薬指に、何か違和感を覚える。
ああ、私きっとまだ夢を見てるんだわ。
こんなこと、ありえるはずがないー。

「どうか私と結婚してください」

指にはめられたのは、“永遠の愛”を象徴するプラチナとダイヤモンド。
結婚指輪だった。

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