恋人ごっこ幸福論
「橘先輩、私まず何やったらいいかわかりました」
「ん、なに」
「お互いのことを少しでも多く知ることです」
そう言うと、橘先輩が訝しげに目を細めてくる。
「…それ、人間関係の基本じゃん?そっからなの」
「はい。私は橘先輩に一方的に質問してるから多少知ってるけど…橘先輩はそもそも私のことそんなに知らないでしょう?好きっていう感情を知りたいんだったらまずは私に興味持ってもらわないと難しいと思います…多分」
「まあ、確かにお前のこと観察しただけだと分かんないから付き合ってみよう、って思ったわけだけど」
「でしょ?だから、今よりはもうちょっとだけでいいから…私に興味持ってもらえたら嬉しいな、なんて」
「本当、随分控えめだな」
ちょっと呆れたように笑う彼の表情を見ると、ついドキッとしてしまった。
笑った、その表情は初めてだな。つい1人でキュンとしていると
「今の顔は俺のこと好きな顔でしょ」
いつの間にか、自分の感情を当てられてしまうから頬が熱くなってくる。
「当たりだ」
「そ、そうですね!その調子で分かることが増えていけばいいんじゃないですかね!」
「はいはい、わかった」
ふっと鼻で笑う彼は、私の何倍も余裕そうで少し悔しい。駄目だ、私がこの人のことを好きすぎてずっとペースが持っていかれている。
「教えてほしい」なんて言われたってこんな感じで私に何か本当にできるのだろうか。メロンパンを齧る彼の姿をちらっと見ると、ふと目があった。