【コミカライズ】黒騎士様から全力で溺愛されていますが、すごもり聖女は今日も引きこもりたい!
 黒い一角獣――キルケゴールは、畳んでいた翼を広げて空へと駆け上がっていく。
 毛布から出した頭で振り返ったルルは、割れたガラスを見て心が折れそうになった。あれを補修するとなれば、シスター達四カ月分の生活費と同じだけの費用がかかってしまう。

 質素倹約の精神で生きるシスター達のために、使えるものは大切に使い、使わないものは売るという方針でやりくりしてきたのに。
 
「私がいちばん迷惑をかけちゃった……」

 悲しくて泣けてきた。ルルがシクシク涙に暮れていると、騎士は「魔法で直しますからご安心ください」と言ってきた。
 この騎士、魔力があるらしい。どこかの貴族か有力者の家の子どもなのかもしれない。王族なのに魔力がないルルの胸には暗い陰がさす。

(私みたいな使い道のない王女を連れて、どこにいくつもりなの)

 キルケゴールは、修道院のある森を飛び越えて、荷や人が運ばれていく街道を尻目に、空をゆうゆうとかけていく。
 青い風がルルの銀髪をなびかせる。太陽の熱は、しばらく日に当たっていなかったルルの頬を薔薇色に染めた。

 遠い空や川や道が不思議と懐かしく感じる。祈りの部屋で人生のほとんどを巣ごもってきたルルにとって、世界はあまりにも鮮やかだった。
 やがて聖教国フィロソフィーの中核である都市カントが見えてくる。

 ルルの胸はざわついた。
 死ぬまで足を踏み入れることはないと思っていたのに、戻ってきてしまった。

< 10 / 295 >

この作品をシェア

pagetop