オフィスの華(令和版）～若社長と秘書のHONEYなヒミツの関係～

「・・・あの日、俺もまたずぶ濡れになっていた君を見ていた。でも、俺が君に傘を差し掛ける前に社長が君に傘を差し掛けた」

「栗原さん！？」

「・・・仮に、俺が先に君に傘を差し掛けていたら、どうなっていたんだろうって…時々考える…いや、染中さんが死ななかったら、俺だって…れっきとした医者になって…俺と君は…」

「・・・私は・・・」

「君はそれでも社長を選ぶんだ。現実がどんなに残酷でもそう言い切れる？」
「えっ？」

栗原さんはカップのコーヒーを飲み干して、腰を上げた。



母がママを務める『泡沫』は…その名前通り、来店されたお客様にほんの束の間の夢や癒しを与える場所。

その幸せな時間は泡のように消えていく。

だから、またお客様が来店する。その束の間の時間を過ごしたくて。

その繰り返し。

染中社長と過ごした時間も同じで泡沫のように消えてしまった。
私は染中社長のコトをお父さんと呼べなかった。それだけが心残りだった。


祐早斗さんとの恋も泡沫の恋かもしれない。でも、彼との関係は永遠だと信じたい。