【完結】イケメンモデルの幼なじみと、秘密の同居生活、はじめました。
 特に道も混んでいるということなく、スタジアムに着いた。
 お母さんは駐車場で車で待っていてくれることなったので、美波は傘を二本持って車を降りた。
 すっかり濡れた道で足を滑らさないように気をつけながら、スタジアムの建物に向かう。
 スタジアムには何度か来たことがあった。陸上大会のような本格的なものでなくても、学校の体育イベントなどで使われることもあるのだ。
 なので構造は大体知っている。入り口のほうへ向かって、無事に入って、傘を閉じて、ふぅっとため息をついた。
 傘の水気を振るって、ちゃんとビニール袋に入れて防水してから、中へ。
 中はまずロビーが広がっていた。そこで待ち合わせをした。
 きょろきょろしながら奥のほうへ向かって、美波は、ぱっと顔を明るくしていた。
 北斗がベンチに腰掛けているのが見えたのだ。
 隣に大きなスポーツバッグを置いている。ここで美波を待っていてくれたようだ。
「ほく……」
 ほっとして、呼びかけたのに。
 美波の声は、そこで止まってしまった。
 北斗は一人ではなかったのだから。
 何人かの女の子が北斗の前にいる。一緒にいて、話をしていたようだ。
 でも明らかに陸上部の子ではなかった。ジャージも着ていないし、それどころか華やかでかわいい私服姿だったのだから。
 応援しに来た子、とかかな。
 美波は思った。
 よくあることだから。
 『気になる男子が出る大会の応援に行く』というのは。
 割り込むようだけど、迎えに来ているのだし、約束もしているのだ。
 適当に「近所に住んでるから」とか言っておけば、別に怪しまれないだろう。
 思って、美波は気を取り直して、「北斗!」と呼びかけた。
 女の子たちの中心にいた北斗は、それで美波に気付いてくれた。
 「おう、美波」と立ち上がってくれた。
 美波はほっとする。
 なんだか北斗が遠くに感じていたのだ。
 でもそんなものは錯覚だ。
 いつも自分のそばにいてくれる北斗ではないか。
 なにも変わらない。
「じゃ、悪いな。迎え、来たから」
 北斗は女の子たちに言ったけれど、そのとき、美波は気付いてしまった。
 その中で一番北斗に近いところにいたのは、モデルの聖羅ではないか。
 え、どうしてあの子がこんなところに。
 美波は疑問に思ってしまった。
 同時に胸が嫌な具合に、ぞくっとする。
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