【完結】イケメンモデルの幼なじみと、秘密の同居生活、はじめました。
 見なければ良かった、と思った。
 後悔していた。
 見てしまったことに。
 嫌な気持ちになるのをわかっていたのに、バカみたい。
 自分でそう思った。
 でも一方で、別のこともわかっていた。
 見なければいけなかったのだ。
 だって、これは北斗の仕事なのだから。
 ただ、仕事でしているだけなのだから。
 それを確かめなければいけなかった。
 でも何故か、とても胸が痛くてならない。
 どうしてこんな気持ちになるのか。
 美波はやはり、まだよくわからなかった。
 ただ、北斗がとても遠くに行ってしまうような。そんな錯覚がした。
 そしてそれを、とても寂しくて、嫌だと思ってしまった。
 胸の中はもやもやするやら、痛いやらで、喉の奥まで苦しくなった。
 まるで涙になってしまいそうなくらい。
 意味もわからず泣くのはおかしいと思ったから、飲み込んだけれど。
 我慢しているうちに、目を閉じていたせいか、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
 こんこん、とドアがノックされて、お母さんの声がして、やっと、はっとした。
「美波? 寝てるの? ご飯よ。具合でも悪い?」
 目を開ければ、もう窓の外はすっかり暗くなっている。
 いけない、と慌てて起き上がった。
 ずいぶん長いこと寝てしまっていたらしい。
「ご、ごめん……疲れてた、みたい」
 ドアを開けて、そこにいたお母さんに笑ってみせる。
 眠ったからか、胸の痛みは少し引いてくれたような気はした。
 お母さんと一緒に一階に下りて、ご飯のためにダイニングに入って、美波はほっとした。
 お母さんは「北斗くんはちょっと遅くなるって」と言っていたのだから。
 流石に今、この状況で顔は合わせたくなかった。
 北斗に会いたくないのではない。
 自分の心がまだ落ち着いていないから、だ。
< 24 / 85 >

この作品をシェア

pagetop