【完結】イケメンモデルの幼なじみと、秘密の同居生活、はじめました。
傷ついた心
 どこをどう歩いてきたのかもわからないくらい、ぼんやり歩いたようだ。
 いつの前にか、家の前まで帰ってきていた。
 美波は玄関が見えるあたりで立ち止まってしまう。
 自分が酷い顔をしている自覚はあった。
 涙は飲み込んだものの、なにか刺激があれば、ぽろぽろこぼれてきてしまいそうな感じがして。
 お母さんにでも、「どうしたの?」「元気がないわね」なんて聞かれてしまったら、我慢できないだろう。
 お母さんになら「友達と喧嘩しちゃって」と話せばいい。半分くらいは本当のことなのだから。
 でも中学二年生にもなって、友達と喧嘩をして泣くなんて、情けない。
 お母さんだって心配してしまうだろう。
 だからあまり帰りたくはなかった。
 もう少し、落ち着くまで外で……公園ででも過ごしてこようかな。
 そう思って、振り返って、美波は目を丸くした。
「お、今、帰りか」
 こちらに向かって歩いてくるのは、部活帰りらしい北斗だったのだから。通学バッグのほかに、陸上部のスポーツバッグを肩から掛けている。
 美波を見て、笑みを浮かべてくれるけれど、美波はそれに答えられなかった。
 ただ、まずい、と思った。
 お母さんに会うより、これはまずい。
 だって今、北斗と普通に話せるわけがない。
 こんなぐちゃぐちゃの心で。
「……どうした。鍵、忘れたのか?」
 美波が家を目の前にして、ぼうっと立っていたからか、北斗は不思議そうな顔をした。
 その気づかってくれるような言葉。
 美波の胸を熱くした。
 でも、自分は北斗にこんなふうに優しくしてもらう資格などないのではないか。
 北斗に頼まれたことと、それから一緒に写れることばかりに夢中になっていて、ほかの大切なひとのことを考えていなかった自分なんて。
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