【完結】イケメンモデルの幼なじみと、秘密の同居生活、はじめました。
 顔をあげて、なんとか言ったけれど、あずみの表情は変わっていなかった。
 にらみつけるようなものなのに、その中にあるのは、多分。
 怒っているというより、傷ついたという感情、だっただろう。
「それはそうでしょ。こっそり付き合ってるんだったら、こんなことじゃ済まさないもん」
 あずみはそう言ったけれど、そのあとの言葉は美波の心に突き刺さった。
「でも彼女役として写って、あんなポーズしたのはほんとでしょ。……私が北斗くんのファンなの、知ってるくせに」
 本当に、そうだ。
 でもそれだけで終わりではなかった。
 あずみが吐き捨てるように言ったこと。
「話してくれないほど、私のこと、信頼してくれてなかったんでしょ!」
 心臓に突き刺されたようだった。
 鋭い言葉を、ナイフのように。
 だらりと、そこから血が流れてきたような気持ち悪さが襲ってくる。
 どろどろと胸の中にとどまって、吐き気のようなものまで湧いてきた。
 怒らせてしまった。
 傷つけてしまった。
 大事な親友を。
「……失望したよ」
 最後に言われたこと。
 錯覚の血液でどろどろになった美波の胸が、さらに、ひゅんっと冷えた。
 あずみは急に動いて、机の上の通学バッグを取り上げた。
「帰る」
 それだけ言って、つかつかと入り口へ向かって言ってしまう。乱暴にバッグを肩にかけて。
 美波は必死に口を開いた。震える声を絞り出す。
「あずみ! 待って! ほんとにごめん……!」
 その言葉に返事はなかった。
 たっ、と床を蹴る音がして、廊下に出たあずみは、たったっと駆けて行ってしまったようだ。
 追いかけようと思った。
 でも美波の足は動かなかった。
 凍り付いたようになっていて。
 ぼうっと、横の机を見た。さっきまであずみのバッグが乗っていたところ。
 【スターライト ティーンズ】は置きっぱなしだった。
 折り目がついているくらい、何度も開いた様子の、美波と北斗の写真のページが開かれたまま。
 何度も見たのかもしれない。
 これは本当に美波なのだとうかと。
 自分の勘違いなのではないだろうかと。
 あずみは優しい子、だから。
 親友を疑いたくないと思ったのかもしれない。
 なのに、そんな親友を、私は。
 美波はぼんやり思った。
 こんなことをしている美波とは、もう一緒にいたくない。
 そう、言われたように美波は感じてしまって、じわっと目の奥が熱くなった。
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