元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
「今こそこの大陸を取り戻すべきだと、本当に思うか?」

「はい……!」

 深く頷いて答える。見つめた先で、父王は苦い笑みを浮かべていた。

「姫であるお前にこのような責務を果たさせるのはつらい。だが、わかってくれるな」

「もちろんです。これが私の役目ですから」

 ようやく責務を果たせるかもしれないという期待と喜びに胸が熱くなる。しかし、それと同時に頭の奥がすっと冷えた。

(魔王を倒す勇者として生を受けた。……それ以外に私の存在価値なんて)

 ほの暗い思いは胸に隠しておく。父の安心しきった笑みは嬉しくもあり、哀しくもあった。



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