元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 突如、肩に冷たいものが触れて息を呑む。振り返ろうとした瞬間、鈍い痛みが走った。

「な、なにをしているの」

「柔らかそうだと思った」

 はぐ、とシュクルがティアリーゼの肩を甘噛みする。

 今はいつもと同じ人型を取っているせいでそう強い痛みはない。

 だが、あのときのように竜の姿となれば、顎に力を入れる前に牙がティアリーゼを引き裂いているだろう。

「人間は美味くないが、お前は美味い」

「食べないでね……」

 それだけ言うのが精いっぱいだった。

 愛玩動物のようだったシュクルには正しく獣としての本性がある。そこの部分だけは、人間であるティアリーゼと決して相いれない。

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