元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
「ああ、良かった。あなたを探しに行こうとしていたの」

「ティアリーゼは寂しがり屋だからな」



 出会ったばかりの頃に比べ、ずいぶんと会話が流暢になったシュクルは、やはりよく見せるようになった笑みを浮かべてティアリーゼを抱き寄せる。

 ふ、とその耳に息を吐くと、少しかすれた声で囁いた。



「昨夜、あれだけかわいがってやったというのに。足りなかったのなら、そう言えばよかっただろう。すぐ気絶するからそういうことにな――」

「やめなさい、朝から」



 ぱし、とシュクルの鼻先を軽く叩くと、青い瞳が驚いたように丸く見開かれた。

 床を撫でていた尾が、不安そうに忙しなく揺れ始める。


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