元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 自分は勇者で、相手は魔王。変わらず敵であるべきなのに、どうもそう思えない。あまりにも害がなさそうに見えるせいだ。

「あなた、本当に魔王なのよね?」

「いかにも」

(なにかの間違いだと思う)

 魔王とはもっと恐ろしく、非道で、残虐な獣なのだと思っていた。それがふたを開けてみればこうなのだから、もうついていけない。

 頭を抱えたい気持ちではあったが、早々に切り替えることにした。現状がこうならば、自分がどうしたって変えられるものではないのだ。

「触るわね」

 その場にしゃがみ、シュクルを見上げる。

 熟考ののち、非常に不本意そうにしながらもおずおずと尻尾を差し出された。

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