元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
「好きなようにして構わない。お前にしか許さないから」

「ん?」

 聞こえた声が妙に柔らかい。しゅう、と空気が漏れるような音がした。

「気に入った」

「なにが?」

「お前が」

 そう言うと、シュクルはちょこんとティアリーゼの前にしゃがみこんだ。

 長身の割にかわいい動きをする、とまたこの魔王の憎めない部分を知ってしまう。それはいいのだが。

「私の子を産んでほしい」

 シュクルはまったく冗談に聞こえない声音で言う。しっかりティアリーゼの手を握り、青い瞳で見つめながら。

「それ、私に言ってるの?」

 理解の限界を超えたティアリーゼが返せたのは、それだけだった。


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