元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 ――キン、と鋭い金属音が中庭に響き渡った。広い敷地の中央で、ひとりの男が膝をつき、その前にティアリーゼが剣を構えながら肩で息をしている。

「ごめんなさい、お兄様。大丈夫でしたか?」

「……ちっ」

 差し出された手を、兄のエドワードは取らなかった。慣れたこととはいえ、その行為は胸に小さな痛みを残す。

 彼はティアリーゼのたったひとりの兄だった。年齢は三つ離れており、本当に血縁者かと疑うくらい容姿に共通点がない。

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