見捨てられたはずなのに、赤ちゃんごとエリート御曹司に娶られました

けれど声音は優しくて、誠実そうな雰囲気は感じている。

実際、中身はどんな人なのだろうと考えるたび、もう少し話をしてみたいなと思ってしまう自分がいた。

ブレンドコーヒーが出来上がり、トレーに乗せて彼の元へと運んでいく。

ちょうど彼はスマホでの通話を終えたところだった。スマホを内ポケットにしまってから窓の外へと目をむけ、小さく息をつく。

物憂げな横顔につい見惚れてしまった……のが悪かった。

他の客が座席から立ち上がり、こちらに向かって歩き出す気配を察し、無意識に避けようとした瞬間、テーブルに足を引っ掛けてしまった。

やばいと思った時にはもう遅かった。そのまま私は前のめりに、大きく倒れていく。


「……い、たっ。……す、すみませんっ! 失礼いたしました」


派手な音を立てて、その場に倒れ込んだ後、打ちつけた膝の痛みを堪えながら、周りの客へと頭を下げた。

トレーから落ちたコーヒーのカップが床にひっくり返っているのを目にし、やってしまったと情けない顔をした後、カップの向こうに見えたスラックスの裾に出来た染みに、一気に血の気が引いていく。

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