見捨てられたはずなのに、赤ちゃんごとエリート御曹司に娶られました
あろうことか、注文してくれた彼にコーヒーをかけてしまったのだ。
「ご、ご、ごめんなさいっ!」
大声で謝罪し、土下座する。恐る恐る顔を上げると、キョトンとした彼と視線がつながった。
「俺は別に。……あなたこそ、膝、痛そうですけど大丈夫ですか?」
「膝なんてどうでも! 裾にコーヒーがっ……ど、どうしよう」
完全にパニックになってしまった私と、自分の足元を交互に見てから、彼はぽつり呟く。
「あ、本当だ」
怒られるかもと体を強張らせて、改めて目を合わせた瞬間、彼がかすかに笑い、肩を竦めた。
わずかに見せた笑い顔からは、本当についてないなというような思いが伝わってきて、申し訳なさで思わず涙が出そうになる。
「あの、今すぐに、タオルを。それからクリーニング代も……」
熱いコーヒーをかけた状態のままぼんやりしてはいられない。やっと我にかえり立ち上がった瞬間、私の手を彼が掴んだ。
「平気です。かかったのはほんの少しだし、熱さすら感じない程度なので」
「……で、でも。そういう訳には」
綺麗な瞳を見つめ返しながら手を引こうとするも、離してもらえない。