見捨てられたはずなのに、赤ちゃんごとエリート御曹司に娶られました
そして最後に映り込んだのは、来ない彼をひとり待ち続けていたあの場所だった。
途端、心細さや、不安に寂しさなど、あの夜の感情まで思い出してしまい、胸がキュッと苦しくなる。
耐えられなくなって、チャンネルを変えようとリモコンを手に取った。
しかし、公園前から場所が切り替わった瞬間、私の動きは完全に停止した。
映り込んだヤギサワホールディングスの前の通りを見つめながら、僅かに唇を噛み締める。
付き合っている当時、この場所にあまり近寄ることはなかった。
ヤギサワホールディングスの本社ビルに圧倒されると同時に、私なんかが付き合っていていい人なのかなと思うほどに、和哉さんを遠くに感じてしまうからだ。
チャンネルをそのままに、ゆっくりと力を抜くようにリモコンをテーブルに置く。
「どうかした?」
声をかけられ、ハッとする。テーブル越しに賑やかにドーナツを食べていたと勇哉と母が、そろって不思議そうな顔で私をみている。
「別に。昔、この辺りもよく通ってたから、……ただ、懐かしいなって」
「……そう」
私の隣に座っていた勇哉は思い出したように再びドーナツにかぶりついたけれど、母は怪訝そうに目を細めた。