【短】好きだからこそのきみとの距離の測り方。
元々、昔から年上ばかりを好きになる質の私。
自分より一つでも年上なら、それでも満足。
だからなのか、油断していた。

絶対に、松原を好きになることはない、と。
それなのに、ある日の放課後…松原が部活中に何度も溜息を吐いていたことが気掛かりで、気付けば私から声を掛けていた。

「おーい。松原〜?どーしたん?なんか元気なくない?」
「まゆっちー…どーしよ。俺…やばいかもしんない」

なるべく軽い感じで声を掛けたのに、その返答はなんとも情けなく…なんとなく母性本能をくすぐられるとはこのことなのか?と思った。

「なに〜?なにがやばいー?」
「…俺さ……楓ちゃんのこと、好きになった…んだと、思う…」
「は?」

そう聞かされた時に、初めて気付いたんだ。

私の方こそやばいじゃん、って。

楓とは、私と受験の席順の時からの大の仲良しで、キュートでサバサバしてて、一緒にいるととても楽な存在。
そして、いつも私の恋を応援してくれる、大切な親友だった。

胸が、ぎゅっと軋む。
でも、私は笑顔を崩さない。

「松原なら…イケるかもよ?」


ごめん、とその時心の中で小さく嘘をつく。
楓には入学当時からずっと好きな人がいて…、松原の入る隙間があるとは思えなかったから。

「さんきゅ、まゆっちー。まゆっちにそう言われると百人力だよ!」

ニカッと白い歯を見せて笑ってくる松原を見つめて、私は密かに溜息を吐いた。

これは、困った。
なんで、好きなヤツの恋を…しかもあまり勝率の少ない恋を応援する羽目になっちゃったんだろうか。

それは、きっと…。
私が松原を好きで、そのピュアな気持ちを傷付けたくなかったから、だと思う。

松原は、テニス馬鹿で恋愛に疎い。
…見た目イケてるムードメーカーなくせをして…。

「まゆっち!相談乗ってもらったから、アイスおごる!」
「や…知覚過敏だから、いらないわ」
「ええー!そういうなよー!なんかおごらせて?」

私の気持ちなど知らずに、松原はぐいぐいと私の腕を掴んで、教室から引き摺りだす。
こんな風なコミュニケーションを取れば取るほど、周りから誤解をされることを、ヤツは知らない。

だから、敢えて釘を刺す。

「松原ー?あんまりこういうことしない方がいいよ?」
「…ん?なんで?」
「はぁ…誤解されるでしょーが」
「あー…そっか。ごめんごめん」

と、離された腕が熱くじんじんと疼く。
それでも気付かないフリをして、私は曖昧に笑った。

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