まだ、青く。
「はぁ...」


ため息が漏れた。


「大丈夫か?」


その声に振り返ってしまえば、また心臓が飛び出てしまいそうなので、私は背を向けたまま頷いた。


「なら、良かった。俺と兆はこれから午前の部の劇に出てくるから、その間よろしく」


声が出ないのでまた首だけを動かす。

こんなに体が火照って声まで出なくなるのは初めて。

それだけ私には衝撃的だったのだ。


凪くんの王子様姿が......。


真っ白のタキシード姿が目に焼き付いて離れない。

脳の記憶から抹消したくてもなんか惜しい気もするし、

でも、このままじゃ冷静に占いをやれそうにないし...。

こんな混乱するなんて...。


「無理だけはしないで、後は練習の通りやれば絶対大丈夫。千先輩も雨宮もいるから、何かあったら頼ればいい。もちろん、俺も応援してる」


頷くことしか出来ない自分が嫌になる。

けど、ここまで来たらもうやるしかないとも思う。

怖じけ付いてはいられない。

やると決めたならやらないと。

私は少しだけ顔を上げ、空気を吸い込んだ。

酸素は美味しい。

鼻を刺激するこの香りが

なんだか心を落ち着かせてくれる。

打ち付けていた波が凪いでいく。


「夏目なら出来る。俺も皆も信じてる。大丈夫。絶対...大丈夫だ」


凪くんは私の背中にそう語りかけるとコツコツと音を立てて去っていった。


大丈夫。

大丈夫。

...大丈夫。


心の中で反芻する言葉を抱いて

私は立ち上がった。

すると、窓の外から勢い良く風が吹いてきて私の心の隙間に入り込んだ。

爽やかな秋風は私のモヤモヤを吹き飛ばし、代わりに透明な心を与えた。

ここに何色を重ねよう。

きっとそれは

今日1日で

何色にも染まる。

染まって全て私の心の色になる。

新しい色を

初めての色を

私は知りたい。

だから、頑張る。

私なら、頑張れる。


私は衣装の裾を持って自分の席まで歩いていった。


「鈴ちゃん、ファイトです」

「鈴ちゃんなら出来るよ!一緒に頑張ろっ」


私は2人の言葉に力強く頷いた。
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