狙われてますっ!
「私、最近、思うんですけど。
 相手を騙し続けようとするのも愛かなって。

 だって、その人のことを好きだからこそ、いいとこ見せたいと思って頑張るわけじゃないですか。

 だから、なにも悪いことじゃないと思います。
 頑張る輝美さん、可愛いですっ」
と言ったあとで汐音は、

 あっ、可愛いとか言ってしまったっ。
 あんた誰に向かって口にきいてんのよっ、とか言われて、チョップ喰らわされたりするだろうか……、
と怯える。

 輝美は、フッと笑ったあとで、

「じゃ、可愛さ投げ捨てて着だるまになったあんたは、加倉井さんへの愛はもうないってことね。

 私はホッカイロとか大量に貼ってこいって意味で言ったのよ」
といつもの口調で罵ってきた。

 ……あ~、なんか落ち着く、と汐音は思ってしまう。

 おしとやかで色っぽい輝美さんもいいけど。
 やっぱ、凶悪なまでに罵ってくる輝美さんの方が落ち着くな……。

「あー、寒い寒い。
 一回見せたからいいわよね」
と言いながら、輝美は手にしていた、くすんだ赤色の素敵な外套(がいとう)を羽織っていた。

 身体が温まって更に調子を取り戻したのか。

「よく見ればあんた、着だるまになってるけど。
 あざといじゃない。

 なに白系でまとめて清潔感出してんの?
 全身白系でも私、そんなに太って見えませんよって細いアピール?」
と因縁つけながら、耳をつまんで引っ張ってきた。
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