蜜溺愛婚 ~冷徹御曹司は努力家妻を溺愛せずにはいられない~


 さっきのご夫婦の事を考えながらぼんやりしていると、いつの間にか私のすぐ傍まで香津美(かつみ)さんが来ていました。
 ここまで走って来たのか、少しだけ息を切らしている香津美さん。

「ごめんなさい、待たせてしまって……月菜(つきな)さん、どうかしたの?」

 仕事の疲れなど感じさせない明るい笑顔で私に話しかけてくれます、やはり彼女はどこにいても華やかでとても魅力的な女性だと思います。
 ですが私はどうしてもさっきの夫婦の事が頭から離れなくて……

「香津美さん……いえ、さっきちょっと変わったご夫婦がいらっしゃったんですが。なんていうか、少し気になってしまって。」

 香津美さんにも少し聞いて欲しいのですが、契約結婚の事をこんな場所で話すわけにもいかないですし。

「変わった夫婦?どんなふうに……?」

 こんな言い方では伝わらないと分かっていますが、他に良い言い方も見つけられなくて……戸惑っていると、香津美さんは私の肩をポンと軽くたたいて一緒にビルの中に入るよう手を引いてくれました。
 香津美さんのこういうさりげない優しさ、凄く胸がほっこりするんです。

「まあいいわ、今日の目的は料理ですもの。行きましょう、月菜さん。」

「は、はい!でも、多分そのご夫婦は……」

 私達と同じ料理教室の生徒さんだと思います、そう言いかけたのですが。
 香津美さんが開こうとしているガラス扉の向こうに見える、2人はもしかして――――

「……だからっ、ここまで着いてこなくても大丈夫です。私は小さな子供ではないんですよ!?」

 扉の前で大きな声を出す女性と背の高い男性を、ちょっと驚いた様子で見ている香津美さん。分かります、男性の方は凄く背が高いんです。柚瑠木(ゆるぎ)さんや聖壱(せいいち)さんよりもずっと……
 その後ろから女性が男性を必死で押し出そうとしていますが、無理だと思います。ほんの少しも彼は動いていないので……
 それにしてもこのご夫婦は、まだ言い合いをしていたんですね。


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