恋愛アレルギー
「今は剃らないでおくけれど、邪魔くさい部分は剃っていいと思うよ」


「わかった」


あたしは顔を動かさずにうなづいた。


でも、眉を剃ったことなんて今まで一度もないし、上手にできるかどうか不安は残っている。


それから咲子は手際よくあたしにメークを施していく。


ピンク色のチークにピンク色のグロス。


全体的にピンクで統一したメークは女の子らしくてとてもかわいらしい仕上がりになった。


「はい、できた!」


ものの10分ほどでメークをした咲子は満足そうに大きく息を吐き出す。


あたしは鏡の中の自分を確認して目を見開いた。


目がいつもの倍くらい大きくなっているし、頬の血色がよくなって見える。


いつも船見くんに声をかけている女子たちに負けていないと自分で感じてしまうくらいだ。


「すごい……」


鏡の中の自分に見ほれて呟くと、咲子がふふんと自慢げに鼻を鳴らした。


「これなら船見くんもびっくりしてくれるはずだよ。行ってみよう」


咲子に促されて、あたしはトイレを後にしたのだった。





B組の教室に入るとみんなの視線を感じる気がして恥ずかしくなった。


けれどせっかく咲子がメークしてくれたのだから、顔を上げて自分の席へ向かう。


その途中で女子生徒の一人が「あれ、日下部さんメークした?」と、声をかけてきた。


あたしはビクリとして立ち止まり、それから照れ笑いを浮かべた。


「うん。咲子がしてくれた」


「そうなんだ! いいじゃん、可愛いよ!」


可愛いと言われることなんて滅多にないあたしはその言葉に大きく目を見開いた。


「本当だ。メークしたほうがいいね」


他の子たちも近づいてきて、あたしの顔を見て感想を言い始める。


その時教室内に船見くんが入ってくるのが見えた。


あたしは緊張してゴクリと唾を飲み込む。


船見くん、なにか言ってくれるかな?


ドキドキしながら船見くんがあたしの隣を通り過ぎるのを待つ。


船見くんは一瞬あたしに視線を送ってきたが、なにも言わずに自分の席へむかったのだった。
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