政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~

「あら、ラッキーね。私なんかはつわり重かったのよ。なに食べても吐いちゃって」

「うちもですよ。桃香は誰に似たんでしょう」

おばさまとうちの母の会話になり、私はホッと胸を撫で下ろす。そしてまた、天ぷらと対峙する。

「……な、夏樹」

私はこっそり、向かいの夏樹に声をかけた。

「ん? どうした桃香」

「天ぷらいらない? こんなに食べられないから」

茄子に、カボチャに、レンコン、そして春菊がふたつずつ。私はお皿ごと浮かせて夏樹に見せた。

「野菜なんだから桃香食べたら? 栄養摂らないとダメだろ。残ったら食べるよ」

「そ、そう……」

私はあきらめ、塩を付けながら天ぷらを口へと運んだ。

実は、私は現在進行形でつわりがある。
たしかに吐いたりはしないのだが、常になにかを口にしていてないと気分が悪くなるほどの食欲があるのだ。
塩気のあるものや脂っこいものがとくに食べたくなり、これまでの食生活では我慢ができない。

おかしいと思い先週の妊婦健診で相談したところ、助産師さんから『それは〝食べづわり〟です』と説明を受けた。

『財前さん、先月から体重が三キロも増えています。このペースだと産むとき大変ですよ。食べ過ぎないように気を付けましょう』

そして、そう忠告もされた。
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