政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~


妊娠八か月になった。梅雨が終わり、夏が始まる温い空気を遮断した室内で、ソファに座って休んでいた。

下腹はパンと張り、元がどんな形だったか思い出せないほど膨らんでいる。

「桃香。触らせて」

ふいに、夏樹の手が伸びてくる。
その手はスカートをめくるわけではなく、まっすぐ、そっとお腹に触れた。

「あ、今動いたよな?」

「うん」

私がうなずくと、夏樹はうれしそうに「すげえ!」と声を上げる。
本当に、父親の顔になった。私も母親の顔になったと思う。
もう、次のステップだ。仲睦まじい夫婦を演じていた私たちは、今はそれをやめて良き親を始めている。新婚夫婦の期間は終わったのだ。

赤ちゃんは大きくなる。
つわりから解放された代わりに最近は頻繁にお腹が張るため、座ったり横になる時間が長くなった。

しっかりと重さを感じ、あとふた月もすれば産まれてくるのだ。
まだなにも心の準備はできていないけど、楽しみで、泣きたくなる。

本当に、楽しみ。演技ではない、本物の家族ができる。私を愛してくれる、心が繋がっている家族に違いないのだ。

私と夏樹の心が繋がることはないけれど、あなたが産まれてくれたら、私は幸せな気持ちになれる。
お腹を撫でながら、そう言い聞かせた。
< 67 / 113 >

この作品をシェア

pagetop