綾取る僕ら
マラソン
10キロと聞いた時、俺は「なんだ、楽勝じゃん」と思った。

雑に整列させられてる今も、10キロは余裕だと思ってる。
ハーフマラソンくらいならもう少し達成感あったと思うのに。

俺は昔からずっと長距離派だった。

だけど今、隣で仁さんが何度も何度もため息を吐く。

「テンション下げるようなため息つかないで下さいよ」
「なー、聞いて」
「嫌です」
「俺、昨日麻莉乃と別れた」
「えっ」

周りでは賑やかに自分たちを鼓舞する掛け声が飛び交っているというのに、バッサリとこの空間だけ切り落とされたように静かになった。

別れた・・・?
こんなにすぐ?

俺は昨日、かなりコマを進めたつもりでいたけど、あっさりとゼロに戻されそうだ。

「それはなんで」
「麻莉乃に、飽きちゃったから」

理由に綾香の名前が出てこなかった。
仁さんは靴紐の最終確認をする。
俺は無意識に手足をブラブラ回していた。

サークルの人間が、人混みの中あちこちに散らばって見える。
ゴンさんだけ規格外にデカいから、一発で見つけた。

「みんなー!一緒に楽しもうねー!」と、かつてオリンピックに出たという女子マラソン選手が声を上げて張り切っている。
それに続く「おー!」というランナーの人々。

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