死にたがりな君と、恋をはじめる
一階では、休日ということもあって、誠おばさんは朝の準備で忙しくしているわけでもなく、優雅にコーヒーを飲んでいた。
「おはよう、誠おばさん」
「……え、奈月ちゃん⁉ 土日なのに、起こさなかったら、いつまで寝てるのに……。それに、今日も声がかすれてない……⁉ え、もしかして、奈月ちゃんも朝方人間になったの?」
「え、いや。違うよ」
感動したように声を震わせ、ぱぁっと表情を明るくした誠おばさんの言葉をばっさと切り、説明をした。
「今日はね……友達と遊びに行く約束をしてて、今日もこのまえみたいに遅くなっちゃうかもしれないけど、……いい?」
「え! 友達と遊びに行くの? 全然いいよっ。楽しんでおいで」
……ごめんなさい、誠おばさん。
嬉しそうに笑った誠おばさんに、少しの罪悪感を覚えて胸がじくりと鈍く傷んだ。
いや、友達……、知り合いと遊びに行くから、そこまで嘘をついているわけではない、よね。
心の中で謝っておこう……。
心の中で両手を合わせておきつつ、私は玄関へ向かった。
「じゃあ、行ってきます」
「はいっ、楽しんできてね!」
嬉しそうに声を上ずらせる誠おばさんを背に、私は扉を開け、外へ出かけた。
外は快晴で、見事なデート日和だった。