幽霊でも君を愛する
第七章 愛しの『彼女』のもとへ
大急ぎで大学まで行ったのに、その苦労が無駄になってしまったのは悔しいけど、割と有意義な時間は過ごせた。
自分が住んでいるマンションは26階まである、ちなみに最上階は屋上。私は3階にある一室を借りている。
同じく3階の部屋を借りている隣人はいるが、それほど親密な付き合いではない。時々喋るか、余り物を貰うくらいだ。
このマンションは割と家賃が高く、一人暮らしでは払えないレベルだ。だが私がこのマンションを選んだのにも、『見栄』だけではないちゃんとした理由がある。
それは、『防音』だ。マンションやアパート住まいだと、騒音トラブルはつきものだ。他人の家同士を無理やりくっつけている構造になっている都合上、どうしても生活音は漏れてしまう。
防音対策してるマンションもあるのだが、数がまだ少ない上に家賃高い。だが私は、人の声が少しでもする場所だと、気が散って執筆に集中できない。
一人で一戸建ての家に住むわけにもいかず、色々と考慮した結果、今の住居に落ち着いた。
今朝はかなり焦っていたからエレベーターは使えなかったけれど、帰りはたまたま1階にエレベーターが来ていたから、早速飛び乗った。
誰もいないエレベーターを占拠できるのは、言葉にはできない程の高揚感がある。何故だろうか、一時的ではあるが、個室になれるからだろうか?
3階のボタンを押し、ゆっくりとドアが閉まる。そしてあっという間に3階へ到着して、私はポケットから玄関の鍵を取り出す。
自転車の鍵と家の鍵はいつも束ねてある。形が違うから、手探りでも何となく分かる。
私は家のノブに鍵を差し込み、そのまま回す。その動作だけで、中にいる牡丹は気付く。部屋の外側からも聞こえる、彼女がパタパタと玄関まで駆け寄っている足音が。
この足音を聞く度に、やっと家に帰って来れた安心感がドッと押し寄せる。そして私は、そのまま吸い込まれるように、部屋へと入っていく。
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