幽霊でも君を愛する
第十五章 『交渉』
私は19年生きていたけど、同じような能力を持つ人は何処にもいなかった。だから、もう期待するのをやめてしまった。下手に相談すると、精神科に連れていかれそうだったから。
でも、私は決して病んでいるわけではない。確証はないけれど、牡丹を愛せる感情は持ち合わせている上に、健康的な生活を自ら維持する事ができるのだから。
精神的な病を患ってしまうと、生活の営みが疎かになったり、他人に対して感情を抱けなかったり。気になって自ら精神病の事を色々と調べたけど、どれも私には当てはまらなかった。
・・・でも、もし今のこの状況を誰かに話せば、きっとそんな反応をされるんだろう。蔵刃であっても、こんな能力を持った人間とは関わりたくない筈。

「〈怨念〉に飲み込まれた霊は、人間に危害を加える存在、いわゆる〈悪霊〉になってしまう。
 ただ、ユキちゃんのように自分で自分に取り憑いた〈怨念〉を引き剥がす事も可能なんだ。
 ・・・でも、成功できる割合は五分五分。戻る霊もいれば、戻らない霊もいる。〈悪霊〉は、
 生前の記憶を探りながら、本能のままに動いてしまう。」

「・・・じゃあ、アレが私の本能・・・??」

そう言いながら、ユキちゃんは震えていた。自分の力の恐ろしさを、ようやく理解できたみたいだ。自我が無くなっている状況では、『あの惨状』を目にしても、何も思わないのも仕方ない。
私は興味本位で、一番最近起きた不審火事件の現場を訪ねてみた。その威力は、まさに爆弾レベル。よほど多くの〈怨念〉を彼女が溜め込んでいたのか、想像するだけでもやるせない気持ちになる。
幸いにも、現場の両隣は空き部屋になっていた為、被害はそれほど出なかった。両隣の部屋も真っ黒な状態で、ベランダで洗濯物を取り込んでいたマンションの住民も、だいぶ落ち着かない様子だった。
私以外にもまだ野次馬が集っていた為、警官数名が頑張って散らしていたが、数分もたたないうちに、別の野次馬が集ってしまう。
現場の部屋に住んでいた男性は死亡してしまった。この爆発に耐えられる方がおかしいくらいだ、男性の『残骸』がしっかり残っていればいいけど・・・
数日前に起きた事件なのに、まだ現場には焦げ臭いにおいが消えない。壁や地面に染み付いているのだろうか。
地面を見ると、灰色のコンクリートに黒い粉や燃えカスが大量に散布している。事件の衝撃が、一体何処まで反響していたのかが窺える。

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