【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 マリアは、預言の書を放り投げると、レイノルドをクレロから引き剥がして、思いっきりクレロの頬を叩いた。
 パン!
 乾いた音と共に「いやあんっ」と甲高い悲鳴がクレロの口から漏れる。

「は?」

 レイノルドはぎょっとした。
 目の前のクレロは、どこからどう見ても男性だ。身長は高く、うっすら髭が生えていて、喉仏も出っ張っている。
 ところが、頬を押さえて体をもじもじさせる仕草は、とても女性らしかった。

「これがクレロ・レンドルムの本性ですのよ。彼が行きつけのマダム・オールのお店に聞き込みをしましたら、よく煌びやかなドレス姿で楽しんでいるとの証言が取れました。彼は、男性の体つきで生まれた女性なのです」

「そ、そうよ。私は厳格な辺境伯の五男に生まれて、兄たちと共に厳しい稽古を付けられて育ってきたわ。でも、本当は剣よりもドレスやお化粧やお絵かきの方が好きだったの。だから実家を飛び出して、王都に来たのよ。田舎より王都の方が多様性は認められるもの!」

 クレロは画家になろうとしたが、描いた絵が少しも売れなかったのだと言う。

「家の名前で王妃殿下のような大口のお客を捕まえたけれど、それも上手くいかなかったの。落ち込んでいたところに声をかけてきたネリネ様が、外国には魔法の絵の具があると教えてくださったのよ……!」

 ネリネは、国王の外遊についていった際に、とある帝国の妃の肖像画を目にした。
 不思議とキラキラ輝くその絵は、魔晶石を削って混ぜた〝魔法の絵の具〟で描かれたものだった。

「私は、それさえあれば今の生活が守られると思ったの。ネリネ様に話したら『辺境の魔晶石を盗むチャンスを作ってあげるから、その魔法の絵の具で自分を描いて』と言ってくださったのよ」

「聖女ネリネは、レイノルド様がまったく自分に興味がないことに焦っていた。そこで、魔法の絵の具で描かれた自分の肖像画を送り、魅了してしまおうと考えて共犯になったのですわ」

 説明しつつ、マリアはレイノルドを伴って壇の前に戻った。
 ドレスをつかんで固まっていたネリネは、ふつふつと沸き上がる怒りで顔を赤くした国王に怒鳴られる。

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