【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい

11話 よこどられ令嬢慟哭

 レイノルドから贈られたドレスを身にまとって、マリアは、姿見の前に立った。

 肌はふっくら柔らかそうな質感を取り戻した。
 髪は頭頂部でシニヨンを作って蝶の飾りをつけ、残りは下ろしている。
 入念なトリートメントで絹のような指通りになったので、シャンデリアの明かりを受けて艶やかに輝くはずだ。

 しっとりとした艶を放つ真珠色の肌に、サファイヤ色のドレスはよく似合った。
 これで舞踏会場に降り立てば、誰もがマリアこそ今日の主役だと思うだろう。

「なんとか間に合ったわね」

 時計を見ると午後六時を過ぎている。
 そろそろレイノルドが迎えに来てもいい頃だ。

 玄関ホールに下りたが、待っても待っても馬車はやってこなかった。

(何かあったのかしら?)

 トラブルか。それとも事故だろうか。

 嫌な予感がして、マリアはジステッド公爵家の馬車で会場に向かった。

 辺りはもう暗い。
 すれ違うランタンをぶら下げた馬車は、招待客を運んだ帰りだろう。台数が多いのは、タスティリヤ王国の有力者も招待されているからだ。

 高いヒールを鳴らして会場に入ったマリアは、きょろきょろと辺りを見回した。

(レイノルド様は……)

 まだ来ていないようだ。
 巨大なシャンデリアを吊り下げたダンスホールには着飾った男女が多数いたが、美しい銀髪は見えなかった。

(事故だったらどうしましょう。誰かに確認しようかしら)

 事情を知っていそうな人間を探すと、国王と王妃の姿が壇上に見えた。
 二人ともマリアには目もくれずに、周囲の貴族たちと歓談している。

 和やかな様子なので、レイノルドに何かあったわけではないようだ。
 となると、遅刻だろうか。宮殿に迎えに行った方がよかったかもしれない。

 マリアは、知り合いの貴族令嬢がいるのを見つけて声をかける。

「こんばんは、お聞きしたいことがあるのですけれど――」

 その時、ざわっと会場が揺れた。

「第二王子殿下とルクレツィア公女殿下が到着されました!」

 案内の声に続いて会場に入ってきたレイノルドは、王子の正装を身につけていた。
 手袋の先でエスコートするのはルクレツィア。

 彼女の姿を見た瞬間、マリアの血がさーっと引いた。

(え……?)

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