【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい

12話 だいへんげ変装潜入

 結婚式に必要な物といえば、式場、招待客、会場を彩る花々、結婚指輪。

 そして忘れてはいけないのが、ウェディングドレスだ。

 一生に一度、結婚式にだけ着るその衣装に、花嫁がどれだけの想いを込めているのか職人はよくわかっている。

「宮殿からお達しがあったんです。マリアヴェーラ様のウェディングドレスを、ルビエ公国の公女殿下のサイズに仕立て直すように、と。何があったんです?」

 ジステッド公爵家にやってきたペイジは、試着したマリアの喜ぶ顔を見ていただけあって複雑そうな表情だ。
 対するマリアはすっかり割り切っていた。

「公女殿下が、レイノルド様と結婚したいと駄々をこねてらっしゃるようよ。困ったものね」

 アルフレッドの情報によると、ルクレツィアは毎日のようにレイノルドと会っている。
 回数を重ねるごとに側近たちも取り込まれていき、今まで進めてきたマリアの結婚式をルクレツィア仕様に変えようとし始めた。

 今はアルフレッドがやめさせているが、いつまで持つかわからないという。
 ルクレツィアに甘い国王が号令をかければ、マリアとの婚約は完全になかったことにされてしまうだろう。

 そんな危機的状況にもかかわらず平然と紅茶をすするマリアに、「許されざる行為ですよ」とペイジは怒り顔だ。

「あれは、マリアヴェーラ様のためのドレスです。公女だかなんだか知らないが、王族なら自前のドレスを作らせればいいでしょう。なぜ、花嫁の心を踏みにじる真似を……」

「わたくしを傷つけて遊びたいのでしょう。残酷な子どもが蜻蛉の羽根をちぎって捨てるのと同じですわ。あなたもどうぞ自分の利のある選択をなさって。わたくしの味方をしていたら、宮殿から仕立て代が支払われないかもしれませんことよ」

「やりたくありません」

 ペイジは首を振った。
 太い眉を吊り上げた彼は、譲れない信条をたずさえた職人の顔をしていた。

「あれは職人としての全て注ぎ込んだウェディングドレスなんだ。着る人間を変えたら、まったく違うラインに仕上がっちまう。そんな仕事は命にかけてもやらねえぞ、うちは!」

 頑固さを見せるペイジに、マリアは赤い唇を引いた。彼は信用できる。

「それでは、あのウェディングドレスは、ジステッド公爵家で買い取りますわ。公女殿下にはわたくしのドレスを仕立て直すという名目で、違うドレスをご用意しましょう。採寸にはいつうかがうのかしら?」

「作るとしたら早い方がいい。明日にでも」
「わたくしも連れて行ってくださらない?」

< 326 / 370 >

この作品をシェア

pagetop