むすんで、ひらいて、恋をして
「らって、りおって、あたまいいって、みんなは、うわさひてた」



莉生に、頬っぺたをはさまれたまま、フガフガ言いながら答える。



「そうそう、少なくとも、アリスの100倍は頭いい」



「……むはつふ!」



「ぶはっ! なにを言ってるか、全然わかんね。つうかさ」



「ん?」



莉生の両手に、頬っぺたを解放されて、ホッと息をつく。



「3年の武田に告られたって、ホント?」



「……どうして莉生が知ってるの?」



きょとんと、目を丸くする。



今日のお昼休みに、3年生の武田先輩に告白された。



でも、じつは何度も誘われては断っていて。見た目も怖くて、ちょっと強引な先輩で、……正直、怖い。



「で?」



「?」



……え?



「返事は?」



「……返事って?」



「つきあうの?」



「は? つきあうって? だれと?」



さっきから、会話がとびとび。



莉生、深刻な顔してどうしたんだろ?



「だからさ、告白されたなら、答えはイエスかノーのどっちかだろ。武田とつきあうことにしたの?」



「ま、まさか!」



武田先輩とつきあうなんて恐ろしいこと、考えたこともない‼



いつにも増して、莉生と会話がかみ合わない。



こんなこと聞いて、どうするんだろ。



「けど、告白されたら、気になったり、ドキドキしたりするだろ」



「そうなの?」



なぜかムスっと不機嫌な莉生に、首をかしげる。



武田先輩のことを怖いな、とか、困ったなと思ったことは何度もあるけど。



ドキドキしたことはりはしなかった。



むしろ、武田先輩に感じたのは不穏な胸騒ぎ……。



「あのさ、アリスは、彼氏ほしくないの?」



「ほしくないよ」


「即答かよ」



「だって、正直、そんな余裕ないもん。学校生活を無事に乗り切るので精一杯だ
よ。誰に告白されたって、ホントの私のことを好きになってくれたわけじゃないし」



「全力でお嬢様のフリをしたりするから、そういうことになるんだろ……」



「莉生が、お嬢様のフリでもしてみればって言ったんだよ!」



「そこまで全力で演じきれとは言ってない」



呆れる莉生に、頬っぺたをふくらませて答える。



「べつにいいんだもん。莉生だけが素の私を知っててくれれば、それでいいよ。莉生と一緒にいると楽しいし。彼氏なんていらないし」



「……っ」



強がって言ったわけじゃないんだけど、心底呆れたのか、莉生は真っ赤な顔して黙り込んでしまった。



「どうしたの、莉生?」



「な、なんでもねえよっ! つうか、こっち見るな!」



へんなの。



「……あのさ、アリスは、好きな奴とか、いないの?」



しばらく黙っていた莉生が、言いにくそうに口を開く。
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