7歳の侯爵夫人
「私が記憶を失っている間に、とうに結婚1周年は過ぎましたのね。これで、『白い結婚』が成立しますわ」

「コニー…!」
オレリアンは絶望に顔を歪めた。
『白い結婚』は正式な離縁理由になり、妻の方から申し立てることも可能だ。
もし本気でコンスタンスが申し立てたら、オレリアンになす術は無い。
なんとしてもその前に阻止しなければ。

「待ってくれコニー。俺は貴女と離縁したいなど、考えたこともないんだ。貴女にずっと冷たい態度をとり続けたことも、貴女を1年近くも領地に放置したことも、夫として貴女と向き合おうとしなかったことも、全部、全部謝る。全て俺が未熟で愚かな男だったせいだ。貴女を傷つけたこと、事故に遭わせたこと、記憶を失わせたこと、それも全部謝るから。謝ってすむほど安易なものではないこともわかっている。でも、これからそれを、全部償わせて欲しいんだ。許せないと言うならそれでもいい。どうか、どうか離縁ではなく、貴女の側で、俺の生涯を通じて償わせてくれないか?」

オレリアンはコンスタンスに口を挟ませることなく、一気に言い切った。
妻を見つめる彼の目は切実で、かつ真摯なものだ。
そこにはなんら自分をとり繕う言葉も嘘もない。

開き直りさえ感じられる言葉や、妻にみっともなく縋る姿を、軽蔑されたって構わないとオレリアンは思った。
どうしても、どうしても離縁だけは受け入れたくないのだ。
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