7歳の侯爵夫人
ある日仕事から帰って来ると、エントランスで商人とすれ違った。

「また大奥様か?」
ダレルが舌打ちし、苦虫を噛み潰したような顔になる。

義母のカレンは邸に商人を呼んでは装飾品を持って来させたり、職人を呼んでドレスを作らせたりしている。
義母には義父の遺産がかなり入ったはずだが、それでも、最近はヒース侯爵の名前で買い漁っているからタチが悪い。

「いい加減、ガツンと言わないとダメだな」
俺が義母の部屋を訪ねると、義母は上機嫌で部屋に招き入れようとした。
もちろん、入ったりすることは絶対にない。

「義母上、また何か買ったんですか?」
扉の外に立ったままそう聞くと、義母は嬉しそうに青く光る耳飾りを見せた。

「見てオレリアン。素敵でしょう?サファイアよ。貴方の目の色みたい」
うっとりと耳に手をやり俺に見せつけてくるが、その大ぶりの宝石はかなり値が張るものだろう。

「義母上。まさかまた私の名前で買ったわけじゃありませんよね?」
俺が冷ややかに問いただすと、義母は全く悪びれもせず、
「もちろんあなたの名前よ。だって夫の遺産なんてたかが知れてるもの」
と言いのけた。

俺はため息をついて、額に手をやった。
義父が義母名義で遺した金はかなりあったはずなのに、最近彼女は俺の名前を出し、ツケで高価なものを購入している。
俺の秘書的な役割も果たしてくれているダレルが、『毎日のように請求書が届く』と頭を抱えていた。
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