許されるなら一度だけ恋を…
「……少し落ち着いたかな」

唇から離れた口でそっと囁く。私は高鳴る胸の鼓動のまま奏多さんに抱きしめられていた。

酔った勢いとはいえ、私……あのままキスされなかったら恐らく『好きです』って伝えていたはず。

奏多さんも雰囲気で何となく私の気持ちが分かったと思うけど、言わせてくれなかったのは……やっぱりそれが答えか。

だったら何でキスしてきたの?

私は奏多さんの胸から離れ、じぃっと奏多さんの顔を見る。

「いや……そんな目であんまりじっと見らんといて」

「えっあ……す、すみません」

私は無意識のうちに見つめてしまい、ハッと我にかえって私も奏多さんも気恥ずかしくなり、頬を赤くさせお互いパッと目を背けた。

「今日はもう休もうか」

そう言って照れた表情をしながら奏多さんは立ち上がる。本当はまだ名残惜しいけど『そうですね』と言って私も立ち上がった。

「桜さん」

「はい」

心地良い夜風が吹き、私は長い髪を耳にかける。

「人前では立場もあるし今まで通りやけど、二人の時はもう気ぃ使わんようにするわ」

優しい表情を私に向けて微笑んだ。その表情に私は見惚れてしまい何も言えなかった。
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