許されるなら一度だけ恋を…
「あら、二人とももう起きてたん?」

温泉宿に行っていた奏多さんの母親が帰ってきた。私達を見てニッコリとしながら声をかけてくる。

奏多さんは『お帰り』と言いながら、母親が右手に持っていた袋をじぃっと見た。

「これ?朝食にと思ておにぎりこうてきたから今準備するわ」

「あっ私も手伝います」

「ふふ、桜さんは奏多の話し相手になってあげて」

私はお手伝いをしようと立ち上がったけど断られてしまい、またそのままストンと座る。

しばらくすると、簡単なもので申し訳ないけどと言いながら朝食が準備された。買ってきたというおにぎりに合わせてお出汁の効いた豆腐とワカメのお味噌汁に鮭の塩焼き……

凄く美味しい。外出先から帰ってきたばかりなのに朝食まで準備してくれて、大丈夫とは言われたもののやっぱりお手伝いするべきだったと食べながら後悔する。

「奏多、桜さんに着物は見せたん?」

「いや、まだやけど」

「大広間に用意してるから朝食済んだら案内してあげてな。ほなうちも色々準備してくるわ」

そう言い残して奏多さんの母親はご機嫌そうに部屋から出て行った。
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