異世界で先生になりました~ちびっこに癒されているので聖女待遇なんて必要ありませんっ!~
そうやって暫く蹲っていると、控えめなノックの音がした。

「イズミ様、じきにお夕食となります。それで、もし宜しければお召し替えをお手伝いしても?」

ああ、そうだ。

エレオノーラさんやレイ君、リーナちゃんと約束したんだった。

こんな姿見られたら、心配かけちゃうよね。

ひとつ、深呼吸をすると、平静を装って返事をする。

こんな部屋着でご一緒するわけにはいかない。

是非お手伝いをお願いしたい。






「先程の変わったお召し物も良かったですが、用意させて頂いたドレスも、よくお似合いですよ。…少々、シンプルすぎな気もしますが」

マーサさんが髪をブラシでときながらそう言ってくれたドレスは、数多くのドレスから何とか私が(精神的な意味でも)着れそうな物を選んだ結果だ。

「それに、このシルバーブルーの髪も、本当にお綺麗。ああ、そうだわ。旦那様の弟君もこんな色合いの髪をしていらっしゃるんですよ。」

「ええと…レイ君とリーナちゃんの叔父様?」

「はい、騎士団に所属していて、とても人気のある美男子ですのよ。残念ながら、この屋敷にはいらっしゃらず、騎士団の寮に入っていらっしゃいますが」

「へえ…レイ君とリーナちゃんの親戚なら、凄く綺麗な人なんでしょうね」

イケメンに興味はあるが、どうこうなりたいとは思わない。

私は平和主義者なのだ。

「ええ、それはもう。…さあ、出来ましたよ。とてもお綺麗です」

完成を告げられ鏡を見ると、そこには間違いなく私の顔だったが、日本人であることを忘れてしまったかのようだった。

黒目黒髪なんてつまらない、なんて思ってたのにね。

「…ありがとう」

「いいえ。まだ少しお時間がありますね。」

私がシンプルな装いをお願いしたので、時間もさほどかからなかったようだ。

「そうだ、マーサさん宜しければ、ちょっと付き合ってもらえませんか?」

感傷的になってはいけない、と思い、別の話をすることにした。

「ええ、もちろん。何ですか?」

「実は、さっきこんなものを作ってみたんですが…リーナちゃんの寝かしつけの前にどうかなと思って。ちょっとお試し版なので白黒なんですけど」

「…これは」

マーサさんは見たことがないようで、少し驚いていた。

リーナちゃんに喜んでもらえそうか、一度やって見てもらう。

「すごいです!お嬢様が寝ている間に作っていたのは、これだったのですね!!」

「リーナちゃん、気に入ると思いますか?」

「勿論です!すごく喜ぶと思いますよ」

ベテランメイドのマーサさんがこんなに驚いているのを見ると、ちょっと嬉しくなる。

うん。

色々考えてしまうけど、私は、私のやれることから頑張っていこう。





後に思えば、この世界をちゃんと見つめ始めたのは、この時からだったのかもしれない。
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