異世界で先生になりました~ちびっこに癒されているので聖女待遇なんて必要ありませんっ!~
ところでお願いとは何だろう。

「はい、私共もそう思っておりました。旦那様は公務が立て込んでいる為お戻りが遅くなりますが、奥様はもうじきお帰りになるはずです。まずは私からお伝えしてみます」

「頼んだ。ルリ様、宜しければ今日はこちらにお泊まりになって下さい。父や母にも紹介したいですし」

何のことやら分からないが、一泊でも安心して過ごせる場所が確保できたのは大変有難い。

「はい、迷惑で無ければぜひ。ご両親にも挨拶させて頂きたいです」

「迷惑だなんて。こちらがお願いしているのですから、そんなにかしこまらないで下さい。それに、リーナも喜びます」

レイ君の言葉に、リーナちゃんがきゅっと私の袖を引っ張る。

「るり……いる?」

「うん、今日一日よろしくね。……あれ? ひょっとして、眠くなってきた?」

よく見ると、リーナちゃんの目がとろんとしている。

「ああ、そろそろお昼寝のお時間ですね。お嬢様、マーサと一緒にお部屋に参りましょう?」

「や。るりと、はなれたくない」

うーん、可愛い。

「じゃあ、私と行こうか?」

「るり、いっしょ?」

「うん、一緒」

コクリと頷いて、手を繋いできた。あー可愛い。

「ではイズミ様も一緒に。どうぞこちらへ」

「リーナ、お休み」

「お休みなさいませ」

「ん、おやすみ……」

ふたりのお母様が帰宅したら呼んでくれるとのことで、マーサさんと名乗ったベテランのメイドさんに案内されてリーナちゃんの部屋へと向かう。

予想通りの豪華なお部屋で、お姫様ベッド(天蓋つき)に心の中で興奮した。

リーナちゃんが私の手を離さないので、ベッドの側に椅子を持って来て、優しく髪を撫でながら子守唄を歌う。

すると、程なくしてすうすうと寝息が聞こえてきて、手を握る力も緩んできた。

そっと手を抜いて、ほっと息をつく。

子どもが無事に寝ると、やった……!って思うのは私だけじゃないはず。

「ありがとうございます、イズミ様。こんなにスムーズにお嬢様がお休みになるのは、とても珍しいです」

そっと寝室のドアを閉めると(なんと部屋は寝室が別についていた!)、マーサさんが感心したように言う。

「それに、あの歌……。聞いたことのない曲でしたが、とても安らぐメロディですね」

まあ、日本の子守唄なんて知らないに決まっている。

「はい、私の故郷(ふるさと)の歌で、子どもを寝かしつける時に歌うんです」

「そうでしたか。では、私はお茶をご用意します。じきに奥様がお戻りと思いますが、お着替え等ありますので、しばらくここでお待ち下さい」

「あ、それなら――」

一瞬マーサさんは戸惑いの表情を浮かべたが、私のお願いを快諾してくれた。

そしてテキパキと温かいお茶を入れ、頼んだ物を持って来てくれると、にこりと微笑んで退出していく。

うーん、さすが貴族、外出から戻っても着替えに時間が掛かるのね。さて、ではしばらく集中しようかな!

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