異世界で先生になりました~ちびっこに癒されているので聖女待遇なんて必要ありませんっ!~
「ですが、イズミ様にお嬢様の教育を全てお任せするのは如何かと」

「うん……まずはルリ様がどれだけ教養のある方か、確かめないとね。足りないところは、ルリ様にも学んでもらって、それをリーナに教えたらどうだろう? それか、ルリ様と一緒に講義を受けてもらうとか? あの様子ならリーナ側には問題ないだろう」

「なるほど。さすが坊っちゃまですね」

「……その呼び方は止めてって言ってるのに」

リリアナの兄であるレイモンドは、いわゆる天才だった。子どもらしくない、とも言う。

だが、ラピスラズリ家の大きな愛情により、ひねくれてはいなかった。

リリアナのことも大切に思っており、家庭教師の問題に悩んでいたひとりだ。

瑠璃の事を全面的に信用した訳ではないが、期待は持っている。

「後は、父上と母上だな……」

その時、ラピスラズリ侯爵夫人の帰宅を告げる鐘が鳴った。

「ふうん? 私が茶会に出掛けている間に、面白いことになったみたいね」

白金の髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ儚い容姿とは裏腹に、ラピスラズリ侯爵夫人であるエレオノーラは、なかなかの性格の持ち主だった。

しかし、お茶会用のドレスを脱ぎ、簡素なものに着替えても、そのたおやかな美しさは損なわれておらず、さすが社交界を彩る華のひとりであることを感じさせられる。

「で、レイもこの件には賛成しているのね?」

ちなみにレイモンドは剣術指南を受けるために、この場にはいなかった。

侯爵家の後継ぎだ、それはもう忙しい。

「はい、私もマーサも、そしてお嬢様の乳母であるマリアも、瑠璃様にお願い出来たらと思っております。」

「分かったわ。とりあえず、本人にお会いしてみないとね」

まるで女神かのような微笑だが、その目の奥に、面白がっている光があることが、分かる者には分かる。

「あと、もうひとつお耳に入れたいことが……」

マーサが遠慮がちにエレオノーラに声を掛ける。

「大したことではないのですが……――」

瑠璃が欲しがったという物の報告に、エレオノーラも訝しむ。

「……そんなもの、どうするのかしら?」

「はい、私も不思議に思ったのですが、何分奥様のご用意が整うには時間がありますので、恐らく時間を潰す為に何かなさっているのだと……。一応お嬢様のお部屋の前にはマリアが控えておりますし、おかしなことがあれば、すぐに駆け込むでしょう」

「そうね。でも、一体何をしているのかしら」

ふたりがセバスに目を向けたが、彼も首を傾げるだけであった。

「……まあ良いわ。後から本人に聞く。リーナが目覚めると厄介だから、そろそろ行きましょう」

確かに、あの懐き様では、目覚めて瑠璃がいないとリリアナが狼狽えそうだ。

そう考えた三人は、瑠璃と話をするため、応接室へと向かうのであった。
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