奇妙でお菓子な夕陽屋

ゆうれいバスと幻華草

 廃墟めぐりが好きな恭一とめぐり。二人は同じ大学で、廃墟同好会に所属しており、こわい話や怪現象が好きな同級生だ。廃墟好きが高じて、山奥にあるマニアの間では話題の廃病院へやってきた。昼過ぎに到着したのだが、バス停からかなり歩くため、ちょっとした登山となった。結局着いたのは午後3時ごろになり、その後休憩しながら廃墟をめぐることにした。

 思いのほか廃墟めぐりは胸がときめいていた。お互いに友達以上だと感じていたせいかもしれない。恋のときめきと廃墟愛の胸のときめきが重なり合って、恭一とめぐりは手をつないで廃墟をめぐる。途中写真を撮りながら二人は愛を静かに育む。お互いの変わった趣味とまわりから言われる廃墟めぐり。このロマンを分かち合えただけでとても幸せだ。二人はこわい何者かに遭遇することもなく、安心半分、がっかり半分で帰宅することにした。

 バス停へ向かうが、日が暮れてきており、早めに帰らないといけないと二人は少し急ぐ。まだ明るいが、バスの本数は1時間に1本程度だ。握りあった手が汗ばんでいたが、気にせず二人は恋人以上の時間を過ごしていた。

 バス停が見えた。先程来た時よりもバス停全体が古くなったような気がしたが、最初から棒の部分にはさびもあったような気がするし、さほど二人は汚れを気にしていなかった。時刻をみるとちょうどもうすぐバスが到着する時間だ。

「来たよ、恭一」
 めぐりがバスに向かって指を刺した。バスは思いのほか古びていたが、このバスを逃すとしばらく次までは来ないので、二人に乗らないという選択肢はなかった。乗ってみると、バスの中はどうにもどんよりした雰囲気が漂う。薄暗く古びたバスの中は時代がひと昔前のような感じがした。具体的に言えば、広告の雰囲気やつり革の造りだろうか。あえて古いバスを運行して使い続けている村なのだろうか。でも、そんなことを口にすると、周囲にいる人に失礼な気がしてとても言えない。このバスを侮辱したら村人を侮辱しているような気がしていた。めぐりは少し不安になって恭一の手をにぎりしめる。

 異変を感じたのはこの後だ。バスに乗っている村人の様子が何かおかしいのだ。割烹着をきたおばあさんの顔に生気がない。いや、他に乗っている乗客全員の生気がないのだ。これはなんだ? みんな表情がなく、スマホを見ている人もいない。そして、気になるのは先程からバス停で一度も一時停車していないということだ。

「このバス、一度も停車していないよね?」
「おかしいな、いくら田舎だといっても一度も止まらないなんて普通じゃないよな」

 二人に動揺が走る。行き先を見ると、駅名ではなく墓場行きと書いてある。それは不気味でどうしようもない文字で書かれていた。絶対に普通のバスではないということを乗客の様子で空気を読み取る。

 青白い顔をした乗客がこちらを見つめる。それは1人だけではない。2人、3人と……2人を見つめる。その空気に耐えられなくなり、めぐりは停車ボタンを押す。しかし、ランプがつかない。
「バスを降りることができない」

 そんなことがあるはずはないのだが、このバスはボタンが効かない。窓を開けようとしたのだが、窓が開かない。運転手に話しかけようとしたのだが、運転手がいない。そんなはずがないということばかりが二人を襲う。仕方なく乗客に助けを求めようとしていたが、みんなただ見ているだけで表情がない。この人たちは生きていない――。直感的に二人は感じていた。

 でも、ここから脱出する方法があるのだろうか? 外を見ても人ひとり通っていないし、来た道とはなんとなくだが違うような違和感がある。不気味な沼を通ったのだが、来るときは通っていない。空の薄暗さもますますバスを不気味に映し出す。電気が車内についたのだが、ちかちかしてよけい点滅が不気味に感じる。

 きっとこのまま乗車していれば墓場=死人となるのではないか? そんな気がしてならなかった。きっとここに乗っている人は死人だ。そのバスに乗ってしまったのが自分たちなのだろう。誰が説明したわけでもないのだが、きっとそうだと二人は心の中で思っていた。恭一はめぐりの手をぎゅっとにぎる。

 助けてください!! 神様、仏様、誰でもいい!!!!

――すると、景色が変わり、バスの中から知らない館の中に二人は移動していた。ありえないことだけれど、助かったと直感的に感じる。

「幽霊バス墓場行きに乗っちゃったのか」
 中学生ほどの少年が立っている。すらっとしたスタイルはとても美しく存在が怪しくも感じる。

「黄昏夕陽だ。この夕陽屋の番人で都市伝説を集めているんだ。今日は幽霊バスの情報をあなたたちのおかげで得ることができたよ」
 満足げな少年は奥の本棚の中にあるたくさんの書物のほうを指さす。

「この本の1ページにあなたたちが体験した出来事を刻ませてほしい」
「それはかまわないけれど、助けてくれるの?」
「そうだね。助けてもいいけれど、彼らがなぜあなたたちの前に現れたかわかるかい?」
「わからないよ」
「君たち、廃墟に行って何も起こらないことを残念に思っていたでだろ?」
「まぁ……」
 二人は否定しなかった。それは本当のことだから。

「あの幽霊は特別サービスをしてくれたらしい。ボランティアであなたたちに恐怖を味わってもらうために現れた幽霊なんだ」
「でも、あのまま墓場に行くのは……死を意味するのだろう? それは俺たちが困るよ」
「あの病院で死んだ人たちの魂があなたたちの前に現れたのだろう。あそこから隔離されて病気で死んだ人たちは、死に場所を好奇心で汚されたくなかったのさ」
 それを聞いて二人は謝る。
「ごめんなさい……」

 夕陽の表情がものすごく険しくなったので、めぐりは泣き出してしまう。少年が大学生を泣かせるなんて普通はあまりないことだけれど、夕陽の威圧感はそれくらい恐ろしいものだったのかもしれない。

「ごめん、俺たちあの幽霊たちに何をしてやればいいんだ?」
「1日みつからなければ、あなたたちは元に戻ることができるんだ。この花を持っていればあの幽霊たちからは見えない存在になることができる。あなたたちから幽霊が見えなくなる。この花を肌身離さず持って1日生活すれば幽霊はもう寄ってこない」
「この花を離したら?」
「落としてもすぐに花を持てば見えないので、助かるけれど、もし見つかったら墓場に連れていかれてしまう。そうすると、二度と戻ることはできない」
「わかった。1日ここでかくまってくれるのか?」
「とりあえず二人でここに隠れていてもいいわよ。ここにあるお菓子や食べ物は自由に食べても構わないよ。基本ここは時間が進まないからお腹が減らないんだけれどね。面白い話が1話加わったよ。だから、特別無料でこの場所を貸すよ」

「ありがとう。今日一日よろしくお願いします」
 二人はもらった小さな花束をそれぞれの手に持つ。

「この花はなんていうの?」
「幻華草といって、幽霊から姿をかくすことが可能な植物さ」
「あの……手が空かないと困るときは? 食べるときとか」
「小さな花束だから、ポケットに入るだろ」

 ポケットに入れても不思議と花が折れたり葉が落ちることはなく、丈夫な植物だ。まるで造花のように丈夫だった。

 夕陽が部屋からいなくなると、二人は安心したのか手を握り合い。見つめあう。恭一が「俺と、付き合ってくれないか」と告白をした。めぐりは待っていたとばかりに目を輝かせる。

 すると、恭一のポケットから花が落ちる。その瞬間、目の前に幽霊たちが現れた。バスに連れていこうとする。急いで花を拾うと、そのまま幽霊たちは消えた。震えた二人は食事をとることもなく、ずっと部屋のすみで花をにぎりしめたままうずくまっていた。どれくらい経ったのだろうか、二人はいつのまにか眠っていた。気が付くと館の中ではなく、大学のサークル室にいた。二人の様子を心配した同好会の部員が起こしてくれたようだ。

「大丈夫か?」
「夢だったのだろうか?」
「何の話だよ」
 能天気の部員の顔を見て、安心した二人は握り締めていた花を見て夢ではなかったと視線を合わせる。

「その花、何だよ」
「これは、魔除けの花らしいんだ」
「ちょっと見せて」

 手を出した手を見た恭一は渡そうとしためぐりの手をさえぎった。

「これは同好会の山田の手じゃない。だから、花を渡してはいけない」

 めぐりは手をみると、それは20歳の手とは思えないほどしわが刻まれ、生気のない色をしていた。

「ごめんなさい」
 めぐりがその幽霊に向かって謝ると、そのまま幽霊は消えてしまった。

 ♢♦♢♦♢

 夕陽が植物図鑑を開きながら、幻華草のページを注意深く読む。
「幻華草は幽霊を寄せ付けないけれど、幻覚が見えるのさ。だから、間違って幻覚の相手に花を渡すとあちらの世界に連れていかれて二度と戻れないらしい」

「最近、夕陽は面白い話を集めようと人間の世界に干渉しすぎだふぁ」

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