推しの子を産んだらドラマのヒロインみたいに溺愛されています(…が前途多難です)
 それから都内へ戻ったけれど、どうやって帰ってきたのかも記憶になかった。

マンションの駐車場に車を止め、自宅でシャワーを浴びる。

 着替えが済んだ頃、志津香さんから電話が入った。

「はい、もしもし」

『ユウヒ? あたしよ。今着いたわ。下りてらっしゃい』

「わかりました」

 俺はスマホだけポケットに入れるとエントランスまで下りて志津香さんの車に乗り込んだ。後部座席でパーカーのフードをかぶり、イヤフォンを耳に着ける。

志津香さんはバックミラーで俺のことをちらりとだけ見て無言でエンジンをかけた。

小言でも言われるのではないかと覚悟していたけれど、意外なほど志津香さん無口だった。もしかしたら俺の様子を見て放っておいても問題ないと察したのだろう。

まったくもってその通りだ。

 車は二十分ほどでテレビ局へと到着した。俺は出演するのは夕方の天気予報。週末から公開される主演映画の宣伝をするために共演者の女優と5分間だけ出演する。

控室へ入ると衣装合わせと簡単なヘアメイクを施される。それから進行表を見ながら簡単な打ち合わせが始まる。

「――で、ですね、今回お二人は夫婦の役ということで映画でも使用したこの指輪を付けていただきたいんですよ」

担当ディレクターはそういって指輪のケースをテーブルの上に置いた。その時ある一つの確信を得た。

「……指輪。そうだ、結婚指輪」

「なにか?」

「いえ、なんでもありません。よろしくお願いします」

 俺は左手の薬指にその指輪をはめた。


***

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