それでも、精いっぱい恋をした。
でも黙って待ってるのも、どうなの。わたしらしくないというか…。
「ちょっとだけここで待ってて、あかねくん」
何か言いかけた彼を放って家に入り、部屋まで駆け上がる。
クローゼットの奥に目当てのものはしまってあって、それを手に掴んでまた外に出た。
「どうしたの?」
「…これっ」
広い胸もとへ突き出したのは、1分遅れの懐中時計。
「欲しいって言ってたから…やる」
「え、いいの?」
「うまくできてないからよーく見たりしないでもらいたいんだけど…いらねーならいいし」
「いる。大切にする」
うれしそうな顔しちゃって、へんなの。そんな失敗作の何がいいんだよ。
そう思いつつ、悪い気はしない。いつだって受けとめてくれる、そういうところが、好き。
「あかねくんのも何かちょうだいよ」
「え、おれの?」
「物々交換だよ」
そうしたら、ちょっとは淋しい気持ちも紛れるだろ。
突然の提案に頭を悩ませている。べんきょーはできてもこういう応用力はねーんだな。あわてふためく姿は、ちょっとかなりかわいい。
何がいいかな。
できれば、ほかの人に牽制になるような感じがいいんだけど…わたしって独占欲強かったんだ。
「制服のボタンがいい。左ポケットのところについてるやつ」
きみの心臓にいちばん近いやつ。
「え、こんなのでいいの?」
「うん。でもまあだらしないって注意されるかもな」
「こんなことじゃ怒られないよ」
うちの学校だったら注意されるんだけどね。
ぷちり、と、簡単に彼はそこからボタンをとってわたしの手のひらにそっと置いた。
「ありがとう。わたしも、大切にする」
ペンダコだらけの手を握った。
繋ぐんじゃなくて、ただのあくしゅ。
がんばれって心のなかで何回も唱えた。ちからを送るみたいに握った。
だけどね、ほんとうは、あかねくんの持ってるもの、ぜんぶもらっちゃいたくなるくらい、何かをもらうようにぎゅうぎゅう握ったんだ。