それでも、精いっぱい恋をした。
もうすぐ日が暮れる。疲れたなあ。頭がパンクしそう。着替える気力もなくてダッサい作業着のまま出てきてしまった。
次の授業でゼロ点調節できなくなってたらカッキー先生にどつかれるから一応復習しとこう…と頭のなかで旋盤を思い浮かべながらエアーでハンドルをくるくるまわす。イメージイメージ。
ネジひとつ作るためにあんなに大きな旋盤を使って鉄を削っていく。
ネジのかたちにするために無駄な部分を省いていくようなあの工程はちょっと好き。
それにしても旋盤にもネジは使われてるから、ネジが先か旋盤が先か…たまごと鶏みたいな関係だよな。へんなの。
くだらないことを考えながら歩いていると「美島!」と呼びかけられた。
校庭のほうを見ると野球のユニフォーム姿のクラスメイト、タケちゃんが手をあげる。
「おー部活おつかれタケちゃん」
「美島も補習お疲れ。大丈夫だった?課題できた?」
実習も普通教科もその他もろもろも、うちのクラスは優秀なタケちゃん頼り。
わたしも例外じゃなく、むしろ率先してタケちゃんを頼ってるから心配されて当然だ。今日はひとりぼっちで課題だったからね。誰にも聞けなくて困った。
「カッキー先生が教えてくれたからよかったけど、超スパルタだった」
「へろへろだね」
「明日からまたよろしく、野球部と5組のエース」
「はは、俺のほうがスパルタかもしれないけど覚悟しといてね」
それはいやだ…タケちゃんは自分が頭が良いからって容赦がない時がある。思いっきり天才肌なんだと思う。