それでも、精いっぱい恋をした。


何が好きも何が嫌いもないって言うけど、たぶん辛かったりすっぱかったり苦かったりするのは苦手そう。

菓子パン…いや違うな。カップラーメンはなんかわたしが買う気にならないし…肉まんがいいかも。


「はるきは買う?さっきのやきそばパン払ってないし、いるなら買うよ」

「いや、わたしはいいや」


さすがにらーめん、チャーシュー飯、やきそばパンに肉まんをオンするのはまずい。身体もちょっと重い気がする。はずかしいから言わないでおく。

だけどあかねくんは花壇に座るなり肉まんをちょっとだけ分けてくれた。中華街のそれみたいにおいしい気がする。


「はるきって放課後はいつも何して過ごしてるの」

「遊ぶかバイトのどっちかかな」

「友達多そうだよね」

「多くはないけど仲良くなったらとことんだね。あかねくんは?」

「だいたい塾」

「…塾って行かなきゃまずいの?」


あ、サボってるやつに言うことじゃなかった気がする。

あかねくんもちょっと目をまるくしてる。だめだったかもしれない。


「あ、いや…行きたくないならやめちゃえばって思っただけで…でもわたしのシャクで考えていいことじゃねー気がするから撤回したい…」

「ははっ」


え、笑うところ?


目じりをクッと落とした、軽やかな笑いかた。

思わず見惚れていると彼はその表情のままこっちを向く。


「はるきの言う通りやめてもいいっておれは思ってる。おれには必要ないから行く気にならない」


勉強が嫌だから塾に行きたくないわけじゃなく、自分には必要ないくらい勉強に自信を持ってるような声だった。

< 34 / 148 >

この作品をシェア

pagetop