それでも、精いっぱい恋をした。


だけど嫌味はない。何もない。ただ素直に、すげーなっていう気持ちになる。

あかねくん。

きみの悩みは、やっぱりわたしには理解ができなそう。


それでも、ちょっと苦しいなあってときは、こうやって一緒にいたいかもしれない。


「そろそろ帰ろうかな」

「あ、うん」


やば、時間、すっかりわすれてた。

見つかったら完全アウト。いろいろアウト。あの付属高校の生徒を連れ回したとかレッドボーイのこととか…見つかった時のことを考えると胃が痛くなりそう。ならないけど。


悟られないように、だけどちょっといそいで、あかねくんにヘルメットを渡す。自分も今度こそちゃんと被る。

エンジンをかけると、おなかにまわった手が布をぎゅっと掴んだ。


夜風を浴びる。

迫ってくる別れの時間。


終わりがくるわたしたち。
再び会うこともないと思う。

だから、どうしてか、このままあかねくんの家がどっかに行っちゃえばいいのにって、へんてこなことを強く願った。


だけどまあ、当たり前だけど叶わなくて。

またねを言わずに、わたしたちは、そうするしかないみたいに手を振った。


< 35 / 148 >

この作品をシェア

pagetop