それでも、精いっぱい恋をした。
えー……なにその、可愛い笑顔。目じりに寄ったしわと下がった眉。手で口もとを隠すようにする。
初めて声出して笑う姿見たかも。ちょっとぐっときちゃった。どうしよう?
とりあえずもう、クラスメイトたちにあかねくんと一緒のところは見られたくないかも。うまく言い訳できる気がしない。
「はるきといると、楽しい」
泣きそうになった。
どうしてかな。
がんばって、堪えた。
「…普段は楽しくないの?あかねくん、友達がいないわけじゃないだろ?」
だって、優しいし、話やすい。それでいて、たぶん自然と人気者になっていくタイプだと思う。まわりに人がいなかったことはないんじゃないかな。
「楽しくないわけじゃないけど、笑うことはないよ」
「……もったいね」
「べつにもったいなくないよ」
「もったいねーよ。可愛い顔で笑うのに」
そう言ってはっとした。すぐにはずかしさが押し寄せてくる。
あかねくんも切り長の目をちょっと広げておどろいた表情をしていた。
だけどすぐにまた笑って「はるきだけ知ってればいいよ」なんてのんきに言う。
特別な言い方じゃない。
だけど、わたしのなかでは、特別に響く。
「…なんだそれ」
なんて返したらいいかわからなくて、そのあとはティラミスを黙々と食った。