それでも、精いっぱい恋をした。


遠くにあればいいのにって何回も思って、だけどけっきょく高級住宅街にたどり着いてしまう。

帰したくないなあ。
なんて、ばかみたいなことを考える。


「今日は、ありがとうな。いろいろ…」


家族の相手も、べんきょー会も。


「はるきはやればできるから、わからないことがあれば、先生にしっかり聞きにいくといいよ。がんばってることを知って嫌な気持ちになる先生はいないから」

「…うん」


菊井先生に聞きにいくのはなんか癪だけど、あかねくんにそう言われたら頷くしかねーよ。

せめてやれることはやらなくちゃって、そういう気持ちになってくる。


「…あかねくんも、その……たぶん、たくさん考えて、あかねくんにはあかねくんの悩みごととか、迷ってることがあるんだと思うけど…」


それは、わたしには理解できることじゃない。

今まで積み重ねてきた努力が、ちがう。

簡単にわかっていいことじゃないんだと思う。


それくらいあかねくんは、今まで、ずっとずっとがんばってきたひと。


「あかねくんがやろうと思えば、ぜったい、なんだって叶えられると思う。そういうひとだと思う」


きみは、そうでなきゃいけない。

そうなるべきひと。
がんばってきたひと。


「だから、明日もがんばろーな」


髙い高い先、あるいは太く引かれた線の向こう。

やっぱりどうにも交わることのできない場所にいるであろう彼に、笑ってみせる。


交われなくても、向かい合いたい。

たまには手を振りたい。少しだけでも、並んで歩いてみたい。

そのために、わたし、変わりたいよ。
がんばってこなかったことを後悔するんじゃなくて、これからを見られる自分になりたいよ。

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