それでも、精いっぱい恋をした。
「うん。がんばろう」
あかねくんも笑顔を返してくれた。
それだけでがんばれる気がした。
名残惜しい気持ちのまま再びヘルメットをかぶりエンジンをかけると、あかねくんが肩をノックしてきたからフェイスだけ上げる。
すると覗き込むようにこっちを見て「土日、空いてる日ある?」と聞いてきた。
突然の問いかけ。
「今週、日曜はなにもない…」
うそ。バイトを休んだ理由はクラスの人たちと遊ぶ予定を立てていたから。
これじゃまるで友情じゃないものをとる人間みたいじゃねえかよ。
だけど、だって、これ、もしかして。
「じゃあその日、10時に時計塔の下で待ち合わせしよ」
「……っ」
「じゃあまた」
初めてあかねくんと待ち合わせをした、3日後の約束。
照れくさそうな顔で背を向けて、数歩歩いたところで振り向いて控えめに手を振ってくる。
「ハンカチ、大事にするから」
本当かよ。
わたしのポケットに、元カノのハンカチ入ってるけどね。
あかねくんらしい台詞で別れた。
みんな、ごめん。
どこに行くかもわからない待ち合わせの日が待ち遠しい。
出会ったばかり。
知らないことのほうが多いと思う。
付属高校に通う、頭の良い男の子。
わたしは、工業高校に通う、偏差値0くらいのバカ。
足踏みしたい。できることならとどまりたい。
これ以上先には行きたくない。逃げたい。
そうは思っても、当の本人が、わたしのどこかをいつだって掴んでくる。
そのせいで、わたしは
あかねくんのことが、もう、とても好きだ。