哀しみエンジン



「よっしゃ。じゃ、片付け、早く終わらせようぜ」



その友人は、1秒も惜しいとでも言うように、手際良くゴミの分別を再開する。

このサークルは、どんな形であれ、みんなが一生懸命だ。

俺はきっと、こういう雰囲気を好むんだな。

友人たちの姿を見ていると、自然と頬が綻ぶ。



「え。今、直江くん、笑った?」



勘の鋭い彼が、瞬時に何かを察知する。

首がこちらにグリンと回って、非常に怖い。



「気のせい、気のせい」

「いや! 今、微笑んでた、絶対」

「怖いって。しかも、距離近いし。変態か」

「ちょっと! 誰が変態よ!」

「お前だよ」



距離を詰めてくる友人とじゃれ合う。

久しぶりに、腹の底から声を出して笑っている。

素直に楽しい。

すると、「なぁ」と声を掛けられる。



「誰か、絆創膏持ってねぇ?」

「あー、持ってないわ。どうした?」



そう言って、友人が歩み寄る。



「ちょっと空き缶で手、切ったっぽい」



確かに、右手の人差し指から出血している。

確信は無いが、絆創膏を持っていそうな人物が浮かぶ。



「俺、持ってそうな人に、聞いてくるわ」



それだけ言って、あの人の所へ行ってみる。



「直江くんってさ……」

「うん」

「サッカー部から来たって言うから、てっきり就活のネタに、駆け込み寺の感覚でうちに来たんだって思ってたんだよな」

「それは俺も思ってた」



既に離れていた俺には聞こえていない、友人同士の会話。

そんな風に思われていたなんて、心外だ。

と、いつか笑って、言ってやろうと思う。


< 31 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop