政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 よく眠れなかった。

 パチパチと強く瞬きをして、額に指先をあてて考える。

 昨日、駅へとふたりを送る途中、車の中で聞いた言葉が気になって仕方がない。

『先日お見かけした時は随分お疲れのようで、顔色も悪く、医者に行くよう勧めたのですが』

 専務。無理をしているのかな……。

 いつものように十時のお茶を畑に届けにきたものの、居ても立っても居られない衝動に駆られる。なんだか落ち着いて座っていられない。

 彼は我慢強い人だから、疲れたなんて言えないんじゃないだろうか。

 こんな時に近くにいれば、コーヒーに砂糖を添えるとか手伝える仕事はないかと聞けるのに。

 私のあと、女性秘書はついていないらしい。行くたびに違う女性がカウンターデスクにいると鈴木さんが言っていた。

「紗空、どうかしたの? 顔色もちょっと悪いわね」

「うん……私は大丈夫なんだけど、友達が具合が悪そうだって聞いて気になって」

「あら、お見舞いに行ってあげたら?」

「え? あ、ああ、うん」
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